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海水パンツとゴーグルで、巨万の富を築きました。カリブの怪物、フリーアルバイター瞳です。

「容疑者Xの献身」読了

容疑者Xの献身 (文春文庫)

容疑者Xの献身 (文春文庫)


「予知夢」に引き続いて東野圭吾の「探偵ガリレオ」シリーズ三作品目。シリーズ初の長編ということで、これまで短編ミステリーでペースよく読んできただけに読む前に若干読書感がどうなるか気になったが、読み始めたらそれはただの杞憂だったと思い知る。それどころか、まさにこの作品こそ前作品から続く湯川の思慮深さが随所に見え、同時に前作品にはない湯川の人間性を表す描写が見られる、シリーズの中での一つの到達点と考えて差し支えない内容だと思う。
花岡母娘、富樫,工藤、そして石神それぞれのキャラクタ描写もくどくなく、それでいてありありと感じられる「感情」が余計に読者を引きつけているものと今になって思える。この「感情」の中で特に強く表現されているのが、様々な「愛」の形であり、それは物語の終盤に向かうに従ってより形を如実にしている。
石神の花岡靖子に対する愛、工藤の花岡靖子に対する愛、湯川の石神に対する友情。それぞれが異なる形ではっきりと表されており、クライマックスにおけるそれぞれの対比は読後の余韻に大きな要因となっている。
またミステリーとしてのクライマックスの衝撃も非常にすばらしく、まさかの展開に読んだときはあっけにとられてしまった。草薙が初めて湯川から真相を聞かされたその気持ちを共有しながら物語は最後の一幕まで進む。
最後の1ページまで読者を引きつけるすばらしいエンターテイメントだった。