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海水パンツとゴーグルで、巨万の富を築きました。カリブの怪物、フリーアルバイター瞳です。

「半島を出よ」読了

半島を出よ〈上〉 (幻冬舎文庫)

半島を出よ〈上〉 (幻冬舎文庫)

半島を出よ〈下〉 (幻冬舎文庫)

半島を出よ〈下〉 (幻冬舎文庫)

最近、書評ばかりになってる気がするけど気にしない。
村上龍の長編小説「半島を出よ」を読了しました。前回、石田衣良の「赤・黒」を読み終わってから行き帰りの通勤時間を使ってちまちまと読んできましたが、何せボリュームが多いんでなかなか読み終わりませんでした。
舞台は、経済力が衰退し国際的にも孤立した2011年という近未来の日本。物語は北朝鮮の特殊部隊が福岡を占領したことを中心として進みます。国家の危機にある状況に於いて適切な判断が下せることが出来ない閣僚。無駄が一切ない組織力を以て、福岡の人々を支配する占領軍。この2つの国家の対比を見るだけで、いくら設定上の日本とはいえ危機感を覚えます。
そんな占領軍に立ち向かうこととなる、イシハラというおじさんを慕い集まった世間からドロップアウトした少年達。最終的にはこの少年達が占領軍を壊滅するに至るわけだけど、彼らがいなかった場合福岡は一体どうなっていたのか、読了後も想像をせずにはいられません。
村上龍という作家は現代の日本の作家に於いてひときわ鋭い感性と表現力を持った作家だと思います。そして特にそれが政治的な作品となった場合、そのメッセージ性の強さに気づかずにはいられません。
彼の「五分後の世界」「愛と幻想のファシズム」といった作品の中に表れる「国家としての日本」には戦後アメリカに統治され、戦争を放棄し、国家としての危機感が無くなった日本に対しての失望が随所に見られます。それらの作品の中には必ず圧倒的脅威を壊滅する集団が存在し、それは作者にとっての希望や皮肉を具現化したものであり、同時にそれらが存在することが期待できない現実の日本に対する不安を読者に植え付けます。

リアルな現実というのは面倒くさくやっかいなものだ。戦後日本はアメリカの庇護に頼ることによってそういった現実と向かい合うことを避けてきた。そういう国はひたすら現実をなぞり、社会や文化が洗練されていくが、やがてダイナミズムを失って衰退に向かう。(下巻 p.562)

現在の日本政府が何の問題にせよ全てから向き合うことを避け、全てを目の届かないところに押しやるだけの政策しか採っていないように映るこの状況をそのまま隠さずに表したこの引用部に共感せざるを得ません。
この作品の中に表れる、一般市民と政治、格差社会、中央と地方、国家と国家、東アジアの中での日本、そういった諸々の対比の一つ一つが今の日本が抱える問題そのものです。そういった問題に対して膨大な調査を行い、それを見事な表現力を以て書き上げたこの作品は、おそらく最近10年の中で最も読み応えがあった作品でした。