読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

YAMAGUCHI::weblog

土足で窓から失礼いたします。今日からあなたの息子になります。 当年とって92歳、下町の発明王、エジソンです。

「高熱隧道」読了

Book

はじめに

こんにちは。Go界の日本電力です。年末に買った本を年末年始で読めなかったので、昨晩一気に読み終えました。

高熱隧道 (新潮文庫)

高熱隧道 (新潮文庫)

仙人谷ダムと黒部ダム

プロジェクトXで取り上げられてたのは、黒部ダム(通称「黒四ダム」、黒部第四発電所のためのダム)で、この高熱隧道の舞台になっている場所よりもさらに奥地に建設されています。黒部ダムの建設に関する逸話は小説をはじめ、映画、ドラマやドキュメンタリーの形で取り上げられているため、名前を知っている人も多いし、自分もプロジェクトXではじめてその壮絶な工事を知ったときには圧倒されたことを覚えています。工事での殉職者が171人にも及んだというのは、高校生の自分には衝撃的な内容でした。黒部ダムの難工事に関する物語としては「黒部の太陽」が有名でしょう。

黒部の太陽

黒部の太陽

しかし、その20年以上も前、まだ戦時中に同じ黒部川水系で、黒部ダムに負けずとも劣らない難工事が行われていたことをこの小説で初めて知りました。その内容が本当に壮絶で、真の意味でデスマーチと呼びたくなるものでした。

本当のデスマーチ

どういう意味でデスマーチだったのか、ある程度ネタバレにはなりますが書いてしまうと

  • そもそも工区にたどり着くまでの道が切り立った岩場を繰り抜いた程度のもので道幅がわずか60cm程度。資材の運搬を行うボッカが工事着工前にあっという間に5名転落死する。
  • 工区そのものが温泉湧出地帯のまっただ中を通過することが工事着工前の地質学者による調査では明らかになっていなかった。
  • 掘削する岩肌が開始30m地点ですでに摂氏65度を超え、掘り進めるにしたがってどんどん加熱、最高地点では摂氏166度に。
  • 掘削中の隧道内はサウナ状態であり人夫が切端で作業を行える時間がたった20分に。それですら、失神する人夫も数多くいた。
  • 人夫を冷やすために渓谷から汲み上げた水を人夫にかけるが、その水が隧道内にたまり人夫の膝まで、ひどい時には腹までたまるほどに。しかも岩肌に暖められて水温が摂氏45度まであがることも。
  • 岩肌がダイナマイトの発火温度を超えるほどになってしまい、設置と同時に爆発。担当していた人夫が死亡。

まだまだこれは序の口で、最終的にこの工事による殉職者が300人に迫るほどになるわけですが、それに至る過程が緻密な描写で淡々と語られていくのがこの小説の恐ろしいところです。多数の犠牲者を出しながらも工事が中止とならなかった背景には、工事の発注元の日本電力の社運をかけた工事だったことと、当時電力が国家的に求められていたこと、しかも天皇からも恩赦がでるほどであったため辞めるに辞められなかったという状況があるようでした。

吉村昭氏の綿密な調査により、工事中の隧道の様子が細かな部分まで伝わってくる、素晴らしい「記録小説」でした。小説に登場する人物や企業はフィクションではあるものの、実際にそれに対応する人物や企業がいるようです。実際に小説中の各事件での殉職者数は現実の事件と一致しています。

デスマーチ」という言葉を職業柄よく聞きますが、真の意味で「デスマーチ」の物語でした。