- 作者: ポールグレアム,Paul Graham,川合史朗
- 出版社/メーカー: オーム社
- 発売日: 2005/01
- メディア: 単行本
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年末に会社の福利厚生を利用して購入。「プログラミングが趣味」という人々よりも、むしろそういう人々の気持ちを理解しがたい方々にお勧めする一冊。
概要
著者のPaul Grahamは名著「On Lisp」の著者としても有名なLispプログラマ。彼自身の経験や観察によるエッセイをまとめたものであり、内容は大まかには下記の4点にまとめられる。
- ハッカーを育む文化
- プログラミングとは何か
- ベンチャーで働くことの意義
- プログラミング言語のあるべき姿
ハイライト
Paul Grahamの文章は非常に軽快で、たとえも分かりやすいものが多い。*1そのような口調で語られる文章は自分の胸に響く文章をいくつか与えてくれた。特に第2章の「ハッカーと画家」は自分が共感するところが多いこともさながら、この気持ちを理解しがたい方々に是非読んでいただきたい。
第2章「ハッカーと画家」
彼らにとってはコンピュータは単なる表現の媒体にすぎない。建築家にとってのコンクリートが、また画家にとっての絵の具がそうであるように。(p.23)
ハッカーは、画家が絵の具に関する化学を理解するのと同程度に計算理論を理解していればいい。(p.26)
ハッキングが現在、絵を描くことほどクールにには思えないとしても、絵画の栄光の時代に絵を描くことは今ほどクールに思われていなかったということを気に留めておく必要があるだろう(p.37)
これらの表現はまさに言い得て妙だと思う。「なぜハッキング(プログラミング)をするのか」を見事に表現している。
「画家」「建築家」という現在ではその文化的地位を確立した職業と「プログラマ」という今はまだ差別的に見られている*2職業のその根源のモチベーションを含めて共通点の多さに驚かされる。自分はこれらの記述を見て逆に「なるほど画家はそういう気持ちで作品に取り組んでいたのか」と納得したほどである。
知識人として
Paul Grahamの意見は知識人のそれとしての価値も高い。この本は訳本の初版が平成17年となっており、まだGoogleの時代が到来する以前のことである。しかし第5章「もうひとつの未来への道」、第12章「普通のやつらの上を行け」では現在隆盛しているWebベースのサービスが主流となる時代の到来を予言しているし、まさに今話題となっているSaaSへの言及も忘れていない。
また第6章「富の創りかた」、第7章「格差を考える」ではハッカーに関してではなく、そもそも「富とはなにか」「働くこととは何か」までを考察し、この世紀に一度の大恐慌の時代で否定され始めている経済主義に対する一つの考え方を提示している。その中でプログラミングを生業とすることの意義を言及し、改めてその価値を見いだしている。
ベンチャーで働くこと
著者は成功したベンチャー起業家であり、Y Combinatorを創立してベンチャーを支援している。そのせいもあって、節々でベンチャーで働くことのメリット、デメリット、チャンス、リスク、大企業との違い等々ファーストキャリアを歩んでいる自分にとっては大いに考察に値する意見を見かけることができる。
ひとまず昼の仕事と夜の仕事、両方を進めていくことに対して勇気づけられた言葉が多い。
おわりに
技術書でも啓発本でもなく、純粋にエッセイとしての魅力たっぷりの一冊。何度読んでも共感できる作品だった。
追記
なお英語を読むことが苦痛でない方にはオリジナルのエッセイをお薦めする。