YAMAGUCHI::weblog

噛み付き地蔵に憧れて、この神の世界にやってきました。マドンナみたいな男の子、コッペです。

『SREをはじめよう』という本が出版されました #becoming_sre

はじめに

こんにちは、Google Cloudのオブザーバビリティ/SRE担当者です。私が翻訳しました『SREをはじめよう―個人と組織による信頼性獲得への第一歩』という書籍がオライリー・ジャパン社より出版されました。書店ならびに各社オンラインストアでご購入いただけます。

www.oreilly.co.jp

『SREをはじめよう』はどんな本か

本書は『SREの探求』のようにGoogle以外の組織を含めた、より一般的な文脈でのSREの実践を、オムニバスなエッセイの形でなく、概論の形で捉えたい人には最適の書籍です。すでに原著の『Becoming SRE』の日本語の感想などもいくつかの記事で見かけていますが、本書はまとめを読んで理解する、という書籍ではなく、本書と対話をするつもりで読み進めながら考えるほうが効果的な書籍だと思いますので、すでにまとめなどを読まれた方もぜひ翻訳版を手にとって一読いただければと思います。

本書は良くも悪くもSREを理解するための書籍です。SREとはなにか、を整理して要点を提示してくれている側面はあるものの、全体としては読者がSREの実践において現時点でどこにいるのか、その認識をより明確にするための補助となる書籍です。したがって、製品の細かな設定やベストプラクティスの構成に関する話ではなく、概念や文化、プラクティスに関する確認を散りばめています。「すでにSREは実践できている」と自認している方々にも、自分たちの立ち位置を確認するために、有用な書籍だと思います。

私が訳者としておすすめしたいのは、読者のみなさんの組織の中でSREに取り組んでいる方々全員で、本書を輪読をしながら感想や意見を交換することです。SREには多くのプラクティスが存在し、そのプラクティスの実践に寄り添うためのさまざまな技術や製品が存在します。(オブザーバビリティ、CI/CD、機能フラグ、ストレージ、コンテナオーケストレーター、IaC、ポリシーマネージャー、etc...)これらを、SREの根幹である「信頼性」を「適切なレベル」で「継続的に」維持するために使うという意識がある場合とそうでない場合とでは、システムに対する見方が大きく異なってきます。

本書の本文中にもあるように、本書はSREの概要に関してGoogleが提唱し続ける価値や実践に寄り添うようにしていますが、一方で多くの著者自身の意見を述べています。脚注のレビュアーのコメントにもぜひ注意を向けてみてください。本書を読み進めながら、「SRE実践の幅」を感じとってもらえれば幸いです。その幅を感じることで、本書以外のSRE関連書籍をあらためて読んだ際に、新たな発見があることと思います。

みなさんの感想をお待ちしています。

こぼれ話

著者 謝辞内の脚注7

今回、本を書くことは容易なことでしたが、世界は大変でした。本当に辛かった。誰にとっても。

この文の最後に脚注7として「原著の執筆は2021年下旬から行われました。」とありますが、これは新型コロナ禍であったことと、議事堂襲撃事件などを含め、アメリカでの治安の急激な悪化が背景にあります。著者がアメリカ在住なので本文でそのような表現になっています。(著者に確認済み)明言をしていないことと、議事堂襲撃事件はアメリカ固有の文脈が強く、日本語訳版において「世界は大変でした。〜誰にとっても。」という内容に即すかが悩ましかったので、新型コロナ禍の部分を強調でいるような含みをもたせるほうが良いと思い、脚注も同様にニュアンスを含めるにとどめました。

序文 アドリエンヌ・リッチの詩

序文冒頭のアドリエンヌ・リッチの詩の引用は最後の最後まで悩まされました。たとえば、3章の脚注10におけるリルケの詩や10章の脚注9にある首楞厳経、あるいはそれこそ他のオライリーやその他の著名な技術書からの抜粋などは、各々の日本語訳版をあたることで表現を揃えられました*1。しかし、このアドリエンヌ・リッチの詩に関しては日本語訳版が見当たらず、自分で翻訳することとなりました。

付録C 第10節

日本語話者、および日本在住の方向けのSRE関連情報を加筆しました。正直この内容は流動的なので掲載するか迷ったのですが、日本のSREコミュニティの発展を願って掲載しました。こういった情報がどんどん増えることを期待しています。

*1:資料の検索にあたっては編集の瀧澤さんのお力添えがなければ何倍もの時間がかかっているところでした。あらためて感謝します。