YAMAGUCHI::weblog

海水パンツとゴーグルで、巨万の富を築きました。カリブの怪物、フリーアルバイター瞳です。

「SREの探求」という本が出版されました #seekingsre

はじめに

こんにちは、Cloud Operations担当者です。このたび私が監訳者として関わった「SREの探求―様々な企業におけるサイトリライアビリティエンジニアリングの導入と実践」という本がオライリー・ジャパン社より出版されました。本日より書店ならびに各社オンラインストアでご購入いただけます。

電子書籍版についてはオライリー・ジャパンのサイトよりePub、PDFの各種フォーマットにてご購入いただけます。

www.oreilly.co.jp

TL;DR

「SREの探求」はGoogle以外の企業でSREの導入がどのように行われているのかを記したエッセイ集です。スタートアップからエンタープライズまで、多くの事例を楽しみながら読める一冊だと思います。ボリュームに圧倒されるかもしれませんが、短編集なのでどの章からでも気軽に読み始められます。ぜひご一読ください。

「SREの探求」のおすすめの読み方

SRE本と同様、非常に分量がある書籍になっていますので圧倒されがちですが、本書は一つの技術に関しての入門やハンズオンを行う類の書籍ではありません。本書の執筆に参加した各社のSREが自らの経験を語ったエッセイ集です。したがって、まずは面白そうだと思う章を読んでみる、というのが良いかと思います。どの章から読んでも構わないと思いますし、読む順番も順不同で構わないと思います。一応、下記にあるように、大まかに4部構成になっていて、各部にある章は関連性が高いものになっているので、読む対象を選ぶときの参考になると思います。

本書を読むに当たって、副読本として同じくオライリーより出版されている「SRE サイトリライアビリティエンジニアリング(以下、SRE本)」が手元にあるとより読みやすいかもしれません。もちろんすでにSRE本を読まれていて内容をある程度把握されている方は必要ないと思いますが、他のSRE関連書籍を読んだことがない、という方は各章に登場するSRE関連用語がわからない可能性があります。Google SREのサイトで原著を無料で閲覧可能になっていますが、日本語の資料があったほうが読みやすいという方はぜひご用意ください。

「SREの探求」はどのような本か

本書はDavid N. Blank-Edelmanが編集し2018年9月に出版された "Seeking SRE" の日本語訳書籍です。

この本は、すでに同じくオライリー・ジャパンより刊行されているSRE本、「サイトリライアビリティワークブック(以下、ワークブック)」「データベースリライアビリティエンジニアリング」に続くSRE関連日本語訳書籍の第4弾となります。

本書は、GoogleだけでなくSREを実践している(しようとしている)多くの企業がその経験を様々な観点から語り、それらを4部に分けて編纂したエッセイ集です。私はこれまで、業務上あるいはコミュニティ関連のイベント等で多くのエンジニアや経営層の皆様と関わる中で、SRE(サイトリライアビリティエンジニアリング)の導入について質問をいただいたときに私が社内のSREの方々から学んだ知見を共有してきました。多くの方々が異口同音にその価値に共感しつつも、その実践となるとハードルがあり、難しいと感じている様子を目にしてきました。

私自身は他社へSREの導入の支援を直接行ったことはない*1ので、実際に各社がどのように導入を行ってきたかは各社の公開情報を断片的に集めてきて学んできました。そうした公開情報はブログ記事であったり、カンファレンスの録画やスライドだったりするのですが、まとまった形で参照できる書籍は本書が出るまでは存在しませんでした。私が2018年にGoogle Cloudのチームへ異動しオブザーバビリティの担当をすることになってからそうした情報を活発に調べるようになったのですが、ちょうど異動した直後に本書が発刊され、これは福音と手に取ったのでした。目次に並ぶ社名を見たあと、実際に各社がSREの導入を試行錯誤した様子を見て、共感をするとともに、苦労が偲ばれました。SREの導入には銀の弾丸は無いと改めて確認するとともに、Google以外でももちろんSREは実践できるのだと、あらためて確信できようになる、そんな一冊でした。

第1部はよく耳にする「SREの導入」についてです。たとえば第6章や第7章ではSoundCloud社がProdEngチームを組織するにいたるまでの経緯、そしてSpotifyでのOps-in-Squadsの内容が詳細に語られていますが、その経験は多くの企業、特にスタートアップ企業に当てはまるのではないかと思います。彼らは専任のSREチームなしでSREを実践してきているわけですが、この例はまさに「SREというタイトルやチームがSREを実践する」ということではなく、会社全体としてその実践を行うことが大事であるということが伺いしれます。また逆に第8章や第10章では大企業でのSREの導入について語られています。これらの章は想像通り鮮やかな解決方法などはありません。特に大企業で発生する組織の問題をどう乗り越えていくのか、という点について生々しい経験を見ることができます。

第2部は「SRE本」や「ワークブック」で触れきれなかったSRE関連の各種手法についての紹介です。カオスエンジニアリング、セキュリティ、データベースリライアビリティなど、「SRE本」「ワークブック」以降に出版された各種書籍につながる内容になっているので、まずはここで概要を抑えてから、必要に応じてそれぞれをテーマとした専門書籍を読むと読みやすいことと思います。*2

第3部はSREにおけるソフトスキルとアーキテクチャーの紹介をしています。個人的には重要なソフトスキルであるドキュメントに関する19章は技術書の中ではなかなか語られないドキュメントの重要性を知れる章です。また23章のアンチパターン集も軽快に読め、気晴らしに読むにはもってこいの章です。

第4部は見過ごしてはならない文化的な側面です。SREに寄った文章にはなっていますが、SREのみならず組織全般に言えるような文化的側面についての考察が広くカバーされています。心理的安全性やバーンアウト(燃え尽き)、はてはソーシャルアクティビズムとの関連性など、広く「人間の組織活動」における懸念事項などを深く突っ込んでいます。心理的にネガティブになるような事象はできる限り起きてほしくないのは常だと思いますし、なかなかソーシャルアクティビズムについてこの文脈で書かれた文章は少ないと思うので、そうした経験を書籍で知れることは意義があると感じます。重い話もありますが、おすすめです。

読んでいただければわかるとおり、どの章も「正解」というわけではなく、現組織が試行錯誤の末にたどり着いた最適解であるということがわかります。それと同時にどの章においてもSRE本やワークブックで何度も語られているような、ユーザーに対する信頼性を獲得するための手法や組織作りを行うことに尽力していることが読み取れると思います。こうした経験の共有が読者の皆さまのヒントになることを期待してやみません。

謝辞

監訳者まえがきでも触れさせていただきましたが、あらためて編集者のオライリー・ジャパンの高恵子さん、翻訳者の渡邉了介さんに感謝いたします。

高さんには全体の進行をしっかりと管理いただき、また私と渡邉さんのコミュニケーションが円滑になるように様々な配慮をいただきました。本書の翻訳原稿はすべて各章ごとにGoogle Docsでいただき、その上に私が「提案」の形でコメントを追加し、それを渡邉さんに再度確認してもらい、良ければ承認、認識のズレがある場合には追加でコメントをいただくという形のワークフローを用意していただきました。会社で日常的にこの形式でドキュメントのレビューを行っているため、私としては大変進めやすかったです。

翻訳者の渡邉さんにはただただ感謝するばかりです。600ページ超の本、しかもエッセイが中心でコードや図表が少なく、かつ技術要素が多い書籍の翻訳を、入念な下調べとともにすばらしい品質で行っていただきました。おかげで私が監修する際にはどこに着目すればよいかが分かりやすく、私の負担が大きく軽減されました。また英語そのもののニュアンスが読み取りづらかった文章も文化的背景から調べていただいた上でいくつかの訳の候補を提案いただいたりと、多くの配慮をいただきました。結局コロナ禍にあって、プロジェクト進行中は直接お会いすることは叶わず、またスケジュールの都合等でビデオ会議もできなかった中で、これほどまでスムーズに共同作業ができたのは、渡邉さんの柔軟性と配慮のおかげだと思います。またこうした機会がいただけるのであれば、ぜひご一緒させていただきたいです。

読者の感想など

レビューエントリー

(更新予定)私の方で確認次第随時追加していきます

blog.hiroakis.net

e34.fm #7で取り上げていただきました!1:04:00頃から @deeeet さん、@rrreeeyyy さんの注目の章の紹介があります。

e34.fm

ツイート

その他

良い香りがするそうです。

しない場合もあります

*1:ところで、Google CloudではCREPSOといった組織がSREの導入支援を行っていますので、ご興味あればご連絡ください。

*2:セキュリティに関してはBuilding Secure & Reliable Systemsがありますし、データベースリライアビリティについては先に上げた書籍があります。