YAMAGUCHI::weblog

噛み付き地蔵に憧れて、この神の世界にやってきました。マドンナみたいな男の子、コッペです。

Googleに入社して10年が経ちました

はじめに

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こんにちは、Cloud Operations suite担当者です。2021年4月18日でちょうどGoogleに入社して10年が経ちました。自分は転職で入社したときのことは書いておらず、前職を退職したときの記録しか残っていませんでした。いい機会なので記録として10年間を振り返ってみようかなと思いました。自分用の振り返りで特に推敲もしておらず、読みづらいと思いますが、とりあえずそのまま出します。

Google入社のきっかけ

当時はPython関係のコミュニティ活動やアウトプットをしていて、ちょうどそのときにGoogleのPartner Solution Organization(いまの gTech という組織の前身)のTechnical Account Managerという職種で空きがあるので、受けてみませんかとメールが来たのがきっかけでした。当時はGoogleというとソフトウェアエンジニア職くらいしか知らなかったので、受けてみるまでそういう技術営業的な職種があることもしらず、失礼ながらどういう職種か調べもせず面接を受け始めました。面接を進める中で職種について理解が深まり、対顧客の仕事が多くあり、様々に技術的に問題解決や価値提供をできる職種だと知ったので興味が深まり、幸いオファーがいただけたので転職しました。

いま思い返すと当時面接してくれた人や入社当時の同じチームだった方はいまはかなりの人が退職したり他国のオフィスに転籍してしまっていて、本当に時間が経ってしまったのだなあと実感します。

YouTubeのTAM/Developer Advocate

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YouTubeの本社に初めて出張に行ったときに撮った雑な写真

最初に担当した製品はYouTubeでした。日本でもいまでこそYouTuberを見かけない日はないほど世間に認知されていますが、10年前はYouTubeは日本国内においてはコンテンツホルダー企業からはお世辞にも良い印象は持たれていなかったと思います。自分は対企業の担当だったのですが、ビジネス開発担当の方々の地道な努力もあって、自分が入ったときには依然としてYouTubeと距離を取っている企業は多数あったものの、同時に試験的にでも公式チャンネルを運用してくださっているも企業がかなりありました。すでにYouTubeを使ってくださっている企業はより収益を上げられるように、まだYouTubeを使っていない企業には導入した場合のコンテンツ保護や収益化した場合の予測、導入の際にはツールやAPIの支援、といったことを業務としていました。当時のYouTube事情はMCN*1が日本でもでき始めたりみたいな話もあったので、結構面白い時期に近くでビジネスが変わっていく様子を見れた気がします。

こういう仕事はソフトウェアを開発するというよりもうまく既存ツールを組み合わせたり、手動でやっていることをなるべく自動化するというような運用仕事がメインでしたが、BigQueryが市場に出る以前よりDremelを使ってダッシュボードを作ったり、お手製ツールで数十TBの参照映像ファイルをアップロードしたりと割とコードを書いたり運用的な仕事が多かったなと思いました。またJASRACとの包括契約を結んでいたこともあって、JASRACが権利者に利用料を再配布するためのレポートを作る必要が出て、実際にそのプログラムを書いたりもしていました。いまはもっときれいに書き直されているはずです。

2012年くらいからはYouTube Liveというライブ配信基盤も公開され、イベントのライブ配信の技術サポートなども現地に行って行ったりしていました。今もそうですが、日本のインターネット環境は世界で見ても相当高水準だったため、日本でのライブ配信帯域幅が大きく、またGoogle側の基盤も不安定だったため、何度かP0のアラートを現地から飛ばしたことがありました。配信の現場にてコンテンツホルダー側の責任者が横で見ている状況で、夜中に起きてもらったアメリ東海岸のSREに状況を説明しながらロールバックやパッチを当ててもらうのは精神的にきつかったです。ただ一方で、生で坂本龍一細野晴臣石野卓球ピエール瀧などに会えたり、種子島こうのとりの打ち上げを見れたのは役得でした。

当時日本でYouTubeに関する対外的な技術的な担当者が少なかったことから、必然的にその動画処理パイプラインやライブ配信CDNの仕組みを見たりすることも多く、技術的にも刺激が多かったです。ご存知の通りYouTubeは買収企業でバックエンドはもともとPythonとMySQLだったのですが、入社時にも絶賛MySQLからBigTableへの移行をしていたりと、巨大なマイグレーションを見ることができたのは面白かったです。

また権利処理システムやネットワーク帯域の確保に関する契約など、サービスに関わる法律や交渉にも関わることができたのは今思えば楽しかったです。Googleが海底ケーブルを他社と協業で敷設していることは有名ですが、それが日本のIXに接続された後は各Tier1プロバイダー経由で各ユーザーに接続します。YouTubeトラフィックでいえば世界有数のトラフィック量を誇るサービスだった(である)ため、たとえばGoogleイントラネットワーク*2と各プロバイダとの接続をIX経由ではなく、ピアリングすることでコストを削減できたりします。あるいはエッジノード(Google Global Cache)で人気コンテンツがキャッシュされていればトラフィックの縮小につながるわけです。こうした取り組みの現場に少しでも関われたのは大変貴重な経験でした。このあたりの話は次のページが詳しいです。

peering.google.com

その後、2年ほどしてからDeveloper Relationsチームに移り、YouTube APIを使ってシステム自動化やSNSキュレーションを行っている国内外の企業の支援をするのも楽しい仕事でした。

Partner Developer Advocate

Developer Relationsのチームが組織改編で製品別ではなく役割別になり、自分はYouTubeのチームから大手企業や中堅スタートアップがGoogleの各種製品(Chrome/Web、Androidといったクライアントサイド)を使って連携する場合の技術支援や新規技術の普及をするチームに移籍になりました。このチームでは常にgTechなどで手厚くサポートできる体制が整う前の新しい製品や機能を扱い、かつ四半期ごとに注力する技術領域が移り、キャッチアップが大変でした。本社やヨーロッパのチームは人数が多く、英語のままサポートできることが多かったので割と技術領域に対してメンバーが固定されていましたが、APACのチームは割と自分と同じように四半期ごとに担当を移る動き方をしていました。

日本で展開に関わった製品でいうとChromecast、Tango、Android Lollipop〜Pieの各新機能、Google Sign-in、Google Photos、Accelerated Mobile Pages、Eddystone、Progressive Web App、Chrome Custom Tabs、Google Now、Googleアシスタントなどがあります。事例をあげようと思ったら多すぎたので割愛。いくつかリリースアナウンスとかインタビューとかで対外的に出ていた記事を貼っておきます。

関わった製品はうまく行ったものもあれば、途中でプロジェクトが終わってしまったものもあり、この会社の良いところも辛いところもいろいろと見てきました。たとえばGoogle Photosに関しては、当時前身となったGoogle+のフォト機能があり、そのフォト機能との他社サービスとの連携というプロジェクトがいくつか動いていました。Google I/Oの直前にようやく連携が終わり、I/Oが終わったらプレスリリースを打ちましょうということになって、現地でお祝いをするという予定も立てた上で、先方の担当者とともにGoogle I/Oに向かいました。で、キーノートを現地で見ていたら、まさかのGoogle Photosが発表、連携用のソリューションもその瞬間にdeprecatedになるという大変苦々しいことがありました。*3

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翌日のキーノートで衝撃の発表をされることを知らずに撮影したGoogle I/O 2015の開催前日の会場の外観

Chromecastの日本展開のときは、元々YouTubeにいたこともあり、割と関わりやすい製品*4だったことも手伝って、非常に楽しいプロジェクトでした。実際いまでも新バージョンが展開され続けている製品ですし、自分も毎日使っている製品なので、その立ち上げ時期に関われたのはとてもいい思い出です。

それぞれの製品を深く見ていくにも一人では限界や得手不得手があるので割とムラはあるけれど、Googleが持っている各種クライアントサイド製品すべてに技術的に関われたのは本当に面白い経験でした。関連してAndroidコミュニティやWebフロントエンドコミュニティ、VR、IoT、SEOやゲーム、はたまたカメラ業界など、多くの業界の方々と関わることができたのは幸いでした。やっていた当時は特に何も考えていなかったけれど、いまクラウドの担当になってから、この辺りの知識を持てていることは自分に取ってアドバンテージに感じています。

Cloud Developer Advocate

Partner Developer Advocateでの仕事も5年ほど続いて、チーム自体には不満はなく(むしろ居心地が良すぎた)担当技術領域も広く見ることができたので大変満足していた一方で、自分の担当がほぼ日本だけだったので、次のキャリアを考えたときにもっと他国とのやり取りが多いチームに移りたいと考えるようになりました。また前職に就職したときもそうでしたが、元々はサーバーサイドに興味があってこの業界で就職したこともあって、クラウドのチームに移りました。ちょうどそのときにポジションに空きが出ていたのはラッキーでした。

自分がクライアント側をずっと見ていた時間の中でサーバーサイドの進歩も非常に多く、特にCNCFを中心としたここ5-6年くらいでの発展は目覚ましいものがあります。いまのチームではオブザーバビリティの領域を担当していますが、Googleの中で発展してきたサイト信頼性エンジニアリングの中で重要な意味合いを持つ技術領域で、かつビジネス的にも繋がりが深い領域なので腰を据えて仕事をできている実感があります。

担当領域が単純な技術の話だけではなく、組織運営や企業経営にも関わるテーマでもあるので、しばらくはこのテーマを元にじっくり取り組んでいきたいと考えています。またコロナ禍以降は海外のお客さんに対してプレゼンやワークショップなどを行ったりする機会も増え、元々目的としていた他国との関わりが多くなりました。得難いポジションだと思うので、まだまだ楽しくやれそうです。

Go

上のような部署の変遷と並行して、Go言語の普及とコミュニティ支援みたいなことも仕事としてやらせてもらったりして大変ありがたかったです。入社した直後は確かバージョンが r57 とかで、バージョン番号が weekly タグから切り替わった直後だった気がします。社内のシステムなんかでもちょくちょくGoが採用され始めて、その様子から「この力の入れようとプロダクトの方向性的にはGoは普及する予感がするぞ」と思って使い始めて、徐々に自分の仕事用のツールもGoに置き換え始めていました。

2012年になっていよいよ1.0がでて、「このビッグウェーブに乗るしかない!!」と思ってGo Conferenceをやりたいと思ったのが2012年末でした。一番最初に開催した幻の初回は20人くらいのこじんまりとした会でした。

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TopGateの会議室で開かれた幻の初回

その3ヶ月後にGo Conferenceとして2013年の春に初開催したのでした。

gocon.connpass.com

@tenntennとはここからずーっと一緒に開催していますが、もう今月末のGo Conference 2021 Springで9年目になるというのが信じられません。始めた当初は世界的にもGoのカンファレンスはほぼなく、日本で数百人規模で開催していると報告するとGoチームも喜んで社内スポンサーとなってくれたのでした。TシャツやGopherのぬいぐるみなどはこのときの支援でもらったものをほそぼそと配布していたのでした。*5

【宣伝】去年はコロナ禍によって開催中止となりましたが、今年は初めてオンライン開催で行います。スポンサーのみなさまのおかげで参加費は無料となっていますので、4月24日にお時間ある方はぜひご参加ください。【宣伝終わり】

gocon.jp

Goの初期から関われて良かったことは、Goチームの人と直接やり取りできたことで、Rob PikeやRuss Cox、Andrew Gerrand、といった方々と直接やり取りできたのは非常に貴重な経験でした。*6

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家宝にしているRenee French直筆のGopherイラスト。Go Conference 2014 AutumnでRob Pikeが東京に来たときに「お礼に」と言ってプレゼントしてくれた

もういまではGoは疑うことなく普及した言語になったわけですが、これからジェネリクスが入ってきたりと新しい局面を迎えようとしています。これからどういった発展をしていくのか、引き続き近くで関わっていきたいと思います。

これから

同じ組織に10年所属するというのは人生においても最長で、特にDevRelのチームメンバーは同じ所属で一緒に居続けるという意味では自分の親の次に長い付き合いになる人もいます。出入りが多い会社にあって、こういった長い付き合いが出来るのは本当にありがたいことです。また同じチームだけでなく、多くのチームの多くの優秀な方々と仕事でき、誇張でなく毎日新しい発見があります。

この業界は隣の部署に行く感覚で転職をすることもよく見聞きしますが、自分の場合社内で3年〜5年で部署を大きく移ってきたこともあり、いまだに新鮮な気持ちで働けている気がします。本当にあっという間の10年でした。いまのチームにいる限りは少しでも多くの人の問題解決を手助けできるように努めつつ、楽しくやっていこうと思います。*7

参照

*1:Multi Channel Network、YouTuberが所属する芸能事務所。日本ではuuumがそういった形態として見られるが、海外では現在は潮流が変わっている。

*2:イントラと呼ぶにはあまりにも大きすぎますが

*3:Google PhotosをGoogle I/Oで大々的に発表するため、担当チームがリークを恐れて秘密裏に進めていたようだけれども、それにしてもこちらから対外連携の話はしていたわけだし、流石にこれはないよと思った

*4:製品の関わりやすさというのは、単純に技術としてわかりやすいだけでなく、製品コンセプトが市場に受け入れやすかったり、開発チームがやり取りしやすかったり、といろいろな要素がある

*5:いまはもう世界的にも商業的に行っているGopherConをはじめ多くのイベントが開催されているので、こういう雑な支援はもらえない

*6:RobがGoチームを離れた後もシドニーオフィスに行ったときにもRobが声をかけてくれたりして嬉しかった

*7:辞めそうな雰囲気出てるかもしれませんが、いまは特に現職を辞めるつもりはありません!