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海水パンツとゴーグルで、巨万の富を築きました。カリブの怪物、フリーアルバイター瞳です。

「オブザーバビリティ・エンジニアリング」という本が出版されました #o11yeng

はじめに

こんにちは、Cloud Operations担当者です。このたび私が翻訳として関わった「オブザーバビリティ・エンジニアリング」という本がオライリー・ジャパン社より出版されました。本日より書店ならびに各社オンラインストアでご購入いただけます。

www.ohmsha.co.jp

電子書籍版についてはオライリー・ジャパンのサイトよりePub、PDFの各種フォーマットにてご購入いただけます。

www.oreilly.co.jp

また上記書籍情報ページに質問は報告を行うための連絡先も記載されておりますので、なにかありましたらそちらよりお問い合わせください。

TL;DR

「オブザーバビリティ・エンジニアリング」はオブザーバビリティの概念を理解し、それを実際にシステムに備えるために必要な技術要件を知り、実践につなげるための書籍です。オブザーバビリティを実践いる方やこれからオブザーバビリティを活用していく方には必携の書籍になると思います。ぜひご一読ください。

「オブザーバビリティ・エンジニアリング」のおすすめの読み方

本書は350ページ程度の中型本で、技術書としてはちょうどよいボリュームだと思います。したがって、オブザーバビリティに関して包括的に理解を深めたいという方であれば頭から通して読み進めていただければと思います。本書は「オブザーバビリティ」と呼ばれるシステムの性質に関して、その技術的な要件や具体的な実装方法、導入の際の文化的側面などを扱った書籍です。そのため、オブザーバビリティの大局観が得られずなにか参照したい方、これからオブザーバビリティを導入していくための考慮事項を把握したい方、オブザーバビリティの技術要件を理解することで既存のシステム監視との差異を理解したい方におすすめです。

本書を読むにあたって、関連書籍として同様にオライリー・ジャパンから出版されている「入門 監視」をご覧いただけると、オブザーバビリティと監視の関連についてより深い理解が得られると思います。また「SRE サイトリライアビリティエンジニアリング」「サイトリライアビリティワークブック」などのサービスレベル目標やアラートの設定に関する章も、本書のテーマと大きく関連しているので、SREの推進としてオブザーバビリティの実践や導入をされている方は、そちらも参照いただくのが良いと思います。

いわゆるSRE本はSREをテーマに横断的にプラクティスを紹介しているのに対し、本書はオブザーバビリティをテーマに概念的な話から具体的な実装の話までを一気通貫で紹介しているので、併読することでオブザーバビリティがSREの中でどこに位置しているのか、何を可能にするのかの理解が明確になると思います。

一点、私のあとがきにも書きましたが、本書はHoneycomb.ioというオブザーバビリティSaaS企業のエンジニア3名によって著されているので、その点に留意して読み進める必要があります。本書の具体例がどうしても彼らの製品の機能や実装による説明になっていので、その背景にある技術や思想を常に意識しながら読みすすめると、皆様が利用しているツールやシステムにおいてどのように適用できるか、何が達成されているかの理解が進むかと思います。

出版に至るまでの話

本書はCharity Majors、Liz Fong-jones、George Mirandaによって著された、 "Observability Engineering" の日本語訳です。

本書が出版されたのは2022年6月だったのですが、本書はEarly Releaseの対象になっていたのと、著者の一人であるLiz Fong-Jonesが元々Googleで同じチームでの同僚だったこともあり、出版以前に最初の数章が公開されてからすぐに読み始めていました。本書が解説しようとしている内容は、SREがだいぶ普及してきた現在において、サービスレベル目標をもとにした運用をする上で切っても切り離せないオブザーバビリティの獲得を行う方法であり、正式版の出版をかねてより期待していました。実際に正式版が出版され、改めてその内容は「オブザーバビリティ」の定義を解説し、本来の監視(モニタリング)と技術的にどのように異なる要件が必要なのかを解説した素晴らしい書籍であると感じました。「オブザーバビリティ」という用語が本来の意味合いから離れて、監視系ツールのマーケティング用語として濫用され、ただ「監視」という用語の置き換えとして用いられるケースが散見される中で、利用者側がその用語の意味を正しく理解するということは非常に重要であると考えています。当たり前ではありますが、そもそも別の言葉が導入されたということは概念として異なるからです。

こういった背景から、日々コミュニティで親しく、また「Java開発者のための関数プログラミング」「Go言語による並行処理」での編集としてお世話になった、オライリー・ジャパンの瀧澤さんに本書を日本語化する意義を紹介したところ、2022年7月半ばには早速企画にしていただき、そのまま翻訳の流れとなりました。また同様にいくつかのコミュニティでかねてよりオブザーバビリティやOpenTelemetryに関する情報を共有している大谷さん(以後、かっちゃん @katzchang)も翻訳に興味があるとのことだったので、半分ずつ担当して共訳することとなりました。

前述の通り、かっちゃんとは以前からオブザーバビリティに関して意識合わせがだいぶされていたこともあり、共訳の作業は大変スムーズでした。私自身が共訳をするのが初めてだったこともあって、訳語の統一などの点で難しさを感じた点もありましたが、自分の担当箇所の初校分に関しては9月中には終わらせることが出来ました。ただ、その後本業がだいぶ立て込んでしまい、見直しの時間があまり取れなかったので、レビュワーの方々にはだいぶ負担をおかけしてしまいました。

謝辞

訳者あとがきにおいても掲載いたしましたが、本業の合間を縫って、年末のお忙しい中、短い時間にもかかわらず有意義なレビューを数多くくださったレビュワーの皆様に感謝致します。

レビュワーの皆様(五十音順)

オライリー・ジャパン

  • 瀧澤昭広さん(@turky

レビュワーの皆様にはエンジニアとしての観点から多くのコメントを頂き、また解釈が不明瞭な部分に関しては、より明瞭になるように対案をいただくなど、非常に有益なコメントを頂きました。中でも何名かには多大なレビューを頂きました。瀬尾さんには、レビューが少なくなりがちな後半からレビューをいただくなど、訳者としてありがたかったです。松浦さんは「入門 監視」を始め多くの翻訳をされていることもあり、訳に関して良い対案をいただきました。馬場さんには、文章として説明が甘くなって部分(原文に原因があるものも多かったのですが)の的確な指摘をいただきました。若山さんには細かな解釈に関して指摘を数多くいただきました。

瀧澤さんに、Sphinxを使った執筆環境を用意いただいたことで、私は大変執筆しやすかったです。「Go言語による並行処理」を翻訳したころから、更にパワーアップして、瀧澤さん側でSphinxが生成するXMLからInDesignへの流し込みを自動化するスクリプトを作成されていたことで、依頼してから1日程度で組版された原稿をいただけるというのは、レビューを行う際に非常に有益でした。実際に執筆をされたことがある方は実感されると思うのですが、原稿のレビューを行う際に、フォーマット(テキストファイル、PDF、紙など)が異なるだけで見え方がまったく異なります。様々なフォーマットでの確認を手早く数多く行えるということは、ソフトウェアのレビューと同様、非常に有用です。ラムダノートの鹿野さんもそうでしたが、編集担当者がポストプロダクションの領域も担当されていることの心強さを感じました。

またかっちゃんとは本書の翻訳に関して、そもそもの本の立ち位置やその価値の認識、背景技術の理解など、息があっていたので、チャットで大きな反対意見でぶつかって議論になることはなく、ツーカーで作業を進めてこれたのはとても気持ちのいい体験でした。翻訳作業はこれまで割と孤独に行っていたので、息のあった共訳者がいる頼もしさを感じました。また機会があったら一緒にやりたいです。

あらためて、みなさまありがとうございました。

おわりに

手前味噌にはなってしまいますが、私が今現在で「SREおよびオブザーバビリティに関して読むべきN冊」という書籍を挙げるとするならば、確実にそのリストの上位に入るべき一冊だと考えています。ぜひ多くの方のお手にとっていただき、日本においてもオブザーバビリティに関する議論がより活発になることを願っております。

参照